対談|休日課長 × WEEK END (後編)

細部にまでこだわる、二人のモノづくりの共通点

 

WEEK ENDのアロマディフューザーを自宅で愛用中の休日課長さん。前編では、WEEK END代表・佐藤優と、アロマディフューザーとの出会い、そしてアロマオイルから連想する“妄想”エピソードまで……!?香りトークで大盛り上がり。後半ではそれぞれのモノづくりへのこだわりに迫ります。

 

 

譲れないのは、細部にまでこだわること

 

――休日課長さんは、音楽活動以外にもレシピ本「ホメられるとまた作りたくなる!妄想ごはん」の出版やレトルトカレー「しじみスープの休日カレー」の開発を手掛けるなど、クリエイティブの領域を広げていますよね。モノづくりへのこだわりを教えてください。

 

休日課長:完成したものを手に取った時、自分が本当に納得できるかどうかですね。例えば、「しじみスープの休日カレー」を制作する際、“しじみカレーの味に明確なイメージがあったので、完成品がそのクオリティに達しているかどうかという点は絶対に譲れなかったです。

 

 

休日課長:でもレトルト化って本当に難しいんですよ。一度高温で加熱する工程があるから味が変化してしまう。しかも製造元が島根県だったので、普段僕が東京にいる関係上、現地に行って1日に何度も試作をする……ということが出来ず歯痒さもありました。でも、相手になげっぱなしだと自分が理想とするゴールには辿り着かない。製造元の方がとても熱心で誠実だったので、たとえ距離が離れていても何度も何度もコミュニケーションと試作を重ねることができ、完成形に辿り着きました。

 

佐藤:その考え方は僕たちとも通じるところがあります。アロマディフューザーの縁の面取りの角度は、メーカーさんと試行錯誤しながら0.1ミリ単位で調整しているんです。お客さんからしたら、このコンマ数ミリの違いはわからないかもしれない。でも、自分たちがプロダクトの細部まで意識を持つか持たないかで、商品のクオリティは変わってくると思うんです。

 

 

休日課長:このアロマディフューザーの飽きない佇まいや質感は、細部へのこだわりと試行錯誤の積み重ねがあってこそなんですね。音楽も全く一緒だなと思いました。例えば、最近だとAI技術の進化ですぐに音楽を作れてしまう。でも、歌詞、曲、アレンジ、サウンドなど、あらゆる要素にこだわって生み出された音楽には、飽きのこない深みがあると思っています。これはモノづくりにおいては、どの分野にも言えることかもしれませんね。

 

佐藤:まさに。モノづくりにおいて、納期は存在しますが、どこまで妥協せずに粘るかという姿勢を持ち続けたいなと。

 

 

休日課長:納期だったり、モノづくりは常に何かしらの制限がありますよね。でも、100%ぶつかってみた結果が80%なら、後に残りの20%を汲み取れる。でも、最初から60%を目指していたら結局何も残らないし、次に活かせない。つまり、粘った末の失敗と最初から諦めての失敗では得られるものが違うと思うんです。だから細部にこだわることってすごく大切ですよね。

 

家電業界のセオリーと真逆をいく、WEEK ENDのモノづくり

 

――細部にまでこだわるというポリシーによって苦労したことはありますか?

 

佐藤:そもそも家電業界では、均一で綺麗なプロダクトを大量生産するというのが基本的な考え方なんです。でも、このアロマディフューザーはほぼ一点ものに近いプロダクト。だから、量産するという家電業界の常識と、伝統技術を活用し細部にまでこだわりたいという僕らのポリシー……この落とし所を見つけるのに苦労しましたね。

 

 

休日課長:確かに、僕の家にあるものも、デザインは良いけれど大量生産されたものが多いです。だからこそ、このアロマディフューザーがあると部屋に温かみも出るし、アクセントにもなる。これも、WEEK ENDのアロマディフューザーを部屋に置いている理由の一つですね。上の陶器プレートを交換して自分好みにできるのもいいですよね。愛用しているグリーンのプレートは色味と模様が絶妙でお気に入りです。

 

 

佐藤:プレートは伝統ある窯元・渋草柳造窯さんに作っていただいています。休日課長さんが愛用しているプレートは、渋草柳造窯さんがもやがかった森のような色をイメージしたと仰っていたので「フォギーフォレスト」と名付けたんです。

 

休日課長:プレートのカラーはもちろん、模様も絶妙でデスクでちょうどいい存在感を放っています。凝っているけど主張しすぎないという、僕の一番好きな落とし所です。

 

佐藤:この模様はデザイナー・横関亮太さんのデザインで、レーザーカッターを使って描いているんです。アロマディフューザー本体がシンプルなので、プレートを交換することで生まれる変化やオリジナリティを楽しんでほしいと思っていたので、休日課長さんにそこまで伝わっていてすごく嬉しいです。

 

休日課長:アロマディフューザーの風量も控えめでいいですよね。結構強めに風がくるのかと思っていたらちょうど良い風量。これもあえて、そう設計されているんだろうなと思いました。

 

 

佐藤:世の中の家電は性能が重視されがちで、例えばアロマディフューザーだったら香りの拡散力の高さが求められます。でも私たちが大事にしているのは、休日課長さんも仰っていたちょうど良さ。これ動いてるの?って言われることもありますが(笑)パーソナル空間で香りを楽しんでもらいたいと試作を繰り返して、ちょうどいい風量に辿り着きました。

 

休日課長:だから、飽きがこないし生活に溶け込むんですね。僕は強すぎたりするものは飽きてしまうタイプなのですが、これはデザインも香りに対するアプローチもすごく程よくて素敵だなって思います。

 

 

それぞれが信頼するクラフトマンの共通点とは?

 

――休日課長さんはお仕事で使う機材や楽器を選ぶとき、どんな点にこだわりがありますか?

 

休日課長:自分が好きな音が出る楽器かどうかにすごくこだわりますね。僕が今一番使っているベースは長野県松本市にある「Sugi Guitars」が作ったものなのですが、代表の杉本眞さんは誰でも知ってる老舗ギターメーカーに技術指導者として呼ばれた生きる伝説みたいなクラフトマン。杉本さんだけでなく、「Sugi Guitars」には素晴らしいクラフトマンが揃ってます。僕は「Sugi Guitars」が作った楽器に全幅の信頼を置いているんです。

 

 

佐藤:他の楽器メーカーと比べてどう違うのでしょうか?

 

休日課長:「Sugi Guitars」は他の多くの楽器メーカーに比べて手作業の工程が多いんです。例えば、通常は木材同士を圧着させるために熱を使うのですが、「Sugi Guitars」は板バネで挟んで日々位置を変えながら地道に圧着させていく……この工程がすごく面白いんです。あと、スタッフの皆さんの知識がとにかく豊富。例えば杉本さんは合板の選び方はもちろん、使用感が良い感じに反映される塗料とか、ものすごく細かいところまで教えてくれるんです。僕も実際に工場へ足を運び、木を選ぶところから携わらせていただきましたが、めちゃくちゃ楽しかったです。仕上がったベースはすごく手に馴染むし、ベースとしての出来が良くてかっこいい。使えば使うほど、いい色合い、風合いになっていくのは、このアロマディフューザーと同じですね。

 

(左:休日課長さん私物。)

 

佐藤:聞いていてベース作りの現場がとてもリアルにイメージできました。制作の背景までしっかりと理解されて楽器を選んでいるのが伝わってきます。WEEK ENDも地元・岐阜の地域資源や伝統技術をモノづくりに活用できないかと思い、常に新しい出会いを求めて県内各地の専業メーカーやクリエイターさんの元に足を運んでいます。

 

休日課長:僕は、工場見学とか作る現場を見に行くのがすごく好きなんですよ。あと、アンプは「AKIMA&NEOS」のアキマ・ツネオさんに作っていただいているのですが、彼のアンプもすごく面白いんです!他のアンプでは絶対に聞けないような音が出て、とにかくアキマさんの色が強い。杉本さんのベースは綺麗に満遍なくいろんな音が出る優等生。なので、この2つをどうブレンドするのか、すごくこだわっています。多分この2つを組み合わせている人は僕以外にいないと思います。

 

新しい技術で臨場感のある音楽を届けたい

 

――モノづくりにおいて、今後チャレンジしたいことはありますか?

 

休日課長:産地に興味があるので、地域に根ざした体験を生み出せていけたらいいなと思います。プライベートだと理想の作業場作り。こういう作業場にしたい!という妄想を日頃からアプリにメモしているので、理想を形にすべく家具や収納を自作するのもいいですね。

 

佐藤:良いですね!僕たちも家電だけでなく、モノづくりの領域をどんどん広げていきたいと思っています。WEEK ENDのデザインチームでは、家電以外のプロダクト、例えば音楽デバイスなども検討しているんですよ。今日は、デザインチームメンバーの都筑くんが3Dプリンターで試作した音楽プレイヤーを持ってきました。

 

 

佐藤:今後も3Dプリンターのような新技術が発展していくと思います。音楽シーンでは、どんな活用方法をイメージしますか?

 

休日課長:香りと同じで臨場感のある音は、直感的に人を感動させると思うんです。だから、ライブを経験できていない国や地域に、臨場感のある音楽を届けたいです。そんな妄想も、もしかしたら3Dプリンターの技術を使うことで擬似的に叶うかもしれない。WEEK ENDさんと一緒に開発できたら面白いですね。新しい技術を活用して、新しい音の楽しみ方ができたら面白いなと思います。

 

(撮影:浅葉未渚 / 取材・文:ともちん / 編集:ちゃんめい)

 

 

<プロフィール>

 

休日課長(きゅうじつかちょう)

ベーシスト。1987年2月20日生まれ、埼玉県出身。2011年に東京農工大学大学院を卒業後、14年までは一般企業に勤めながらバンド活動を展開。現在は「ゲスの極み乙女」「DADARAY」「ichikoro」「礼賛」4つのバンドを中心に活動している。

“食関係の活動も行なっており、20年に著書「ホメられるとまた作りたくなる!妄想ごはん」(マガジンハウス)を出版、21年に同書が原案本としてドラマ化された。

Twitter ( @eninaranaiotoko ) https://twitter.com/eninaranaiotoko

Instagram ( @kyujitsu_kacho ) https://www.instagram.com/kyujitsu_kacho/

 

 

佐藤優(さとう ゆう)

暮らしの探求から生まれたプロダクトブランドWEEK END』代表。

岐阜県中津川市生まれ。カナダ留学を経て、2014年父が経営する家電製品の企画、製造、流通を手掛ける会社・株式会社ミュージーに入社。社内ベンチャーで『WEEK END』を立ち上げ、地元岐阜の地域資源を活用し「作り手」と「使い手」の繋がりを生む商品を開発。最初のプロダクトであるアロマディフューザーが2022年度グッドデザイン賞受賞。国内外から注目を浴びている。

戻る